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私たちが住み暮らす社会は,人間と,ある面では人間を凌ぐ能力を持つ知能機械が混ざり合ったものへと,その姿を大きく変えようとしてます.社会が変われば,それを支えるシステムや制度も変わるはずです.しかし,どのように変えれば良いのかは,杳として知れません.

コラボデザイン研究室では,人工知能の一分野であるマルチエージェントシステム(multi-agent system)をコアの技術として,研究・開発を行っています.マルチエージェントシステムとは,たとえば人間やロボットのように考え,行動する主体をエージェント(agent)とよぶソフトウェア(小さなAIプログラム,と思ってもらえば良いです)としてモデル化・実装し,それらエージェントの相互作用を研究する研究の領域です.相互に作用するエージェントの集合体であるマルチエージェントシステムは,個々に独立した行動主体の集積から成る組織,たとえば人間社会のような大規模複雑系をモデル化したり,また高度に複雑なシステムを設計する際に有用と言われる技術分野でもあります.

当研究室では,社会や都市を支える情報システム,制度,しくみやサービスなどを創り出す事も目的に,まず,マルチーエージェントに基づくシミュレーション,すなわちマルチエージェントシミュレーション(multi-agent simulation:MAS)による社会システム・制度のデザインに関する研究を行ってきています.そのために,Web(情報空間)でのマイニングやフィールド(物理空間)でのセンシングによる社会データの獲得と,機械学習等による個人の行動分析とモデル化を行うための研究を行っています.また,社会という大規模複雑系を扱うために,シミュレーションの大規模実行やその応用の研究開発を行っています.

参考:服部宏充,栗原聡.エージェント研究におけるシミュレーション.人工知能学会誌,Vol. 28, No. 3, pp. 412-417, 2013 [AI書庫]

ICT/AIはより便利で豊かな社会の実現のために,我々人間の能力を補ってくれるものです.たとえば,当研究室では,人間には予測困難な社会の挙動の予測をシミュレーションによって代替し,新しい都市の構造,法や制度,社会を支えるサービスの設計を支援しようとしています.とはいえ,社会を構成する人々の価値観は多様ですから,我々はどのような未知の社会を設計しシミュレーションするべきかを,そもそも我々自身が考える必要があります.現状では,コンピュータは,道徳・倫理に配慮しつつ,人間の幸福を計算してはくれません.当研究室では,人々が多様な価値観に目を向けながら議論をするための支援の方法・ツールについても研究・開発を進めています.これは,シミュレーションなど情報技術を駆使して得られる,新たな社会の設計の知見・指針が人々に受け入れられるようにするために必要な研究活動です.

参考:服部宏充.人々の良きパートナーとなる人工知能へ(<特集>編集委員会企画-社会とAIの羅針盤2015-).人工知能学会誌,Vol. 30, No. 1, pp. 31, 2015 [AI書庫]

[研究室の研究活動の概要]

図のように,現実の社会の観察を通して多種多様なビッグデータを得て,分析・モデル化を行い,シミュレーションに基づく仮想の社会で新たな社会のシステム・制度・サービスの設計・検証を重ね,現実の社会での実践に繋げる,一連の社会システムデザインのプロセスを実現することが当研究室の目標です.


以下に,研究事例を紹介します.

都市交通の再現シミュレーションと交通施策設計

都市内の交通流を,マルチエージェントシミュレーションで再現します.そのために,一般車両やタクシー,バスなど多様な車種を模擬した車両エージェントを構築し,数千・数万車両を走らせて仮想交通流を生成しています.模擬交通流をベースとして,これまで,電気自動車と太陽光発電が普及した環境でのエネルギーシェアリングについてのシミュレーションを行っています.他にも,たとえば,自動運転車の導入効果の事前検証,ライドシェアなどの新しい交通システムの最適設計などを支援するといった応用が考えられ,大学周辺の草津市の詳細なシミュレーション環境を構築し,交通施策の検証を可能にするための活動を行っています.

  • 金月寛彰,服部宏充.マルチエージェントシミュレーションによるタクシー営業戦略の改善シナリオの提案.人工知能学会論文誌,Vol. 34,No. 3,pp. C-IA2_1-92, 2019 [J-STAGE]
  • Noda, I., Murase, Y., Ito, N., Izumi, K., Hattori, H., Kamada, T., Mizuta, H., Takeuchi, M.: Project CASSIA – Framework for Exhaustive and Large-Scale Social Simulation -, Advanced Software Technologies for Post-Peta Scale Computing, Springer, PP. 271–299, 2019
  • 金月寛彰,服部宏充.プローブデータを用いたタクシーの個別営業戦略のモデル化と交通シミュレーションへの適用.情報処理学会論文誌,Vol. 59,No. 5,2018
  • 服部宏充,十見俊輔,中島悠.大規模マルチエージェントシミュレーションに基づく社会システムデザインの可能性.電子情報通信学会論文誌D,Vol. J100-D,No. 2,pp. 180-193,2017
ドローンによるフィールドセンシング

実際の都市のおいて人や車がどのように動いているか把握するためのデータは限られており,入手が困難です.そこで,ドローンを利用して上空から都市の様子を撮影し,画像解析や深層学習といった技術を駆使して,都市の動態(人流・車流)を丸ごとデータ化します.獲得したデータは,移動体の計算モデル構築,シミュレーションにおけるデータ同化や,妥当性の検証などに利用することができます.

多様な価値観を織り込む議論支援システム

膨大な情報へのアクセスが可能となる一方,多様な価値観に配慮しながら,広い視野をもって新たな,または変わりゆく物事を捉え解釈・理解し,意思決定や合意形成を行う事が難しくなっています.そこで,人々の議論に現れる言葉を抽出し,それらの関係を可視化しながら,異なる観点を提示し,新しいものの捉え方や考え方を促す支援を実現するためのシステムAIR-VASを試作しています.本研究は,学際的共同研究グループAIRのメンバーと共に推進しています.

  • 吉添衛,服部宏充,江間有沙,大澤博隆,神崎 宣次. 多様な価値観への気づき支援 – 議論の可視化と考察. 科学技術社会論研究, No. 16, pp. 120-132, 2018

これまでの学位論文タイトルリスト